PCR検査とは
細菌検査を用いた歯周治療のコンセプト
2005年6月、医学情報社から「細菌検査を用いた歯周治療のコンセプト」と題する書籍が出版されました。当医院の院長 千ヶ崎乙文も執筆者として参加しております。また、2006年10月、第49回日本歯周病学会にて、学会発表して参りました。当医院では、将来歯周病にかかって苦労するのかしないのかを予測するため、来院者の歯周病原菌を数多く検査していきました。歯周病を引き起こす細菌は、いくつもありますが、その中で、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg)菌、タンネレラ・フォーサイセンシス(Tf)菌、トレポネーマ・デンティコーラ(Td)菌に関しては、悪玉菌として知られています。歯周病は、菌の感染がなければ、発症しない病気ですが、お口の中に感染している菌の種類と量が、将来歯周病の進行にどのような影響があるかは十分にはわかっていません。しかも、この検査には、歯周病細菌の遺伝子を照合する検査(PCR検査)が必要で、これは、親子鑑定や狂牛病検査などと同じ検査システムを使用します。現在、外注検査業者による検査では、1検査について、約1万5千円程度のコストがかかり、特別な場合以外は検査自体が普及していません。
当医院では、院長が東京医科歯科大学歯周病学教室に籍を置き、医院内にこのための検査システム(約1,000万円)を導入し、自ら検査を行っているのです。しかも、皆さんから頂く費用は、検査試薬・消耗品実費がほとんどです。
PCR検査費用
細菌検査費用 | |
虫歯菌培養検査 ミュータンス菌検査のみ |
1,080円 |
通常検査 | 3,240円 |
歯周病PCR検査 上記3菌種のDNA検査 | 4,320円 |
虫歯菌・歯周病菌の全体検査(割引価格) | 5,400円 |
不要な検査であれば、いくら安くても損をした気持ちになりますが、実に多くの情報がこのコストで得られるのですから、決して高くはないはずです。このコストでこのレベルの検査が受けられるのは、この歯科医院だけなのです。
現在までに1,000人を越える方が検査を受けられ、ご自分の歯周病の病状と細菌感染の関係を調べました。出版されました書籍には、その一部のデータが掲載され、日本人の歯周病と細菌感染の相関に関する重要な疫学データになっています。
当医院では、これを受けて、歯周病が発症していない若い方には、検査結果から、将来歯周病で苦労するかしないかの判定を行って、予防に役立てています。また、歯周病が進行して苦労されている方には、歯周病の治療の効果がでているかを判定するためにやはり、この検査を有効に使用しています。
誰でも、ご自分の歯を一生涯健康に保ちたいと思っているはずです。ただ、定期的に検診を受けるとか、歯石を取るとかではなく、一歩進めて、科学的根拠に基づいて積極的に歯周病の治療・予防をする時代になったと言えるでしょう。
歯周病の要因とだ液のPCR検査
歯周病をおこした歯肉
1番目の要因としては患者本人の抵抗力、免疫力の不足があげれます。これには、遺伝的要因も関与すると言われています。最近の研究で全体の20%の人は治療したにも関わらず、免疫力の低下や遺伝的要因のため、歯周病により歯を失っています。
2番目は生活習慣病ともいえる要因で、特に喫煙は最大のリスクとされています。また、糖尿病などの全身疾患の影響も疑われていて、生活習慣の改善と健康な体づくりが大切であることがわかります。
3番目の要因として、歯周病に特定の細菌が関係していると考えられていることが挙げられます。様々な研究から、
・Actinobacillus
・actinomycetemcomitans(Aa菌)
・Prophyromonas gingivalis(Pg菌)
・Bacteroides forsythus(Bf菌)
らが容疑者である事には十分な証拠があります。Aa菌は、歯周病の若者でよく発見され、Pg菌やBf菌は、成人型歯周炎の患者の口の中で頻繁に見つかります。しかし、これらの細菌が存在しても歯周病にならない人もいますし、どの程度の数の細菌が口の中にいれば、歯周病になるかについては、その人本人の抵抗力の差によって左右されるので、一般的には歯周病について細菌検査をすることは意味がないとされてきました。
それより大きな理由は、歯周病の細菌の特定は、細菌の遺伝子レベルでの調査が必要で、その検査にかかる費用は高額になります。 そのため、現時点では、歯周病の検査は、主に病気の為にできた、歯周ポケットやポケットからの出血などを調べ、歯周病にかかっているかどうかを調べるレベルに留まっています。歯周病は発症してから対処しても、元の健康状態に戻ることはできません。
一生自分の歯で噛むためには、将来歯周病を発症しやすいハイリスク者を診断する技術が必要です。一つの可能性は、歯周病に負けてしまう遺伝子要素を調べることですが、自分の遺伝子を検査することには、まだ抵抗があるかもしれません。
もう一つは、歯周病が少なくとも細菌の感染症であり、歯周病にかかっている人は、Aa、Pg、Bfなどの細菌がいます。問題は、個人個人で定期的に歯周病菌の数を調べて、多くの人のデータから歯周病にかかる細菌の数と、その他の歯周病の検査データを調べて、歯周病になる前に気付き予防出来るかです。
すでにつくばヘルスケア歯科クリニック、千ヶ崎歯科医院において、定期管理に来院される患者さんの唾液から歯周病の原因の菌の遺伝子を検査しています。この検査は、PCR(Polymerase Chain Reaction)法とよばれ、唾液サンプルの中に歯周病菌が存在するかと、その数も調べる事ができます。検査を外注すると、一回に約15,000円程度の費用がかかり、すべての患者さんのスクリーニング(大まかなふるい分け診査)に使用することは不可能です。
そこで院長は、東京医科歯科大学付属病院歯周病学教室に籍をおき、同研究室石川烈教授、梅田誠助手の指導を受けて検査器械一式を導入、院内で検査ができる体制を整えました。これにより、1細菌あたりの検査コストは2,000円にまで低下させることができました。検査費用を極限にまで下げることで、多くの患者さんに定期的な歯周病菌の検査を気軽に受けていただけると思います。
この研究結果から、何100人、何1000人というレベルで年齢、歯周病の状態、細菌の数の関係が分かれば、歯周病になる前に予知し、予防する事ができると考えています。